1.はじめに - アフリカ地域の食糧需給動向 -
まず、近年のアフリカ地域での食料需給動向を見てみよう。
近年のアフリカ全土およびサブサハラ地域における食糧生産動向を下表に示す。
表 アフリカ全土及びサブサハラ諸国における食糧生産動向 単位:1,000ton
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地域
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年
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穀物
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イモ類
|
プランテン
|
合計
|
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サブサハラ地域
|
1993
|
61,912
|
35,116
|
5,116
|
102,144
|
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2002
|
72,941
|
45,405
|
5,858
|
124,204
|
|
年増加率
|
1.84%
|
2.90%
|
1.52%
|
2.20%
|
|
サブサハラ以外
|
1993
|
32,727
|
1,493
|
0
|
34,220
|
|
2002
|
38,922
|
1,831
|
0
|
40,753
|
|
年増加率
|
1.94%
|
2.29%
|
0
|
1.96%
|
|
アフリカ全土
|
1993
|
94,639
|
36,609
|
5,116
|
136,364
|
|
2002
|
111,863
|
47,236
|
5,858
|
164,957
|
|
年増加率
|
1.88%
|
2.87%
|
1.52%
|
2.14%
|
注:サブサハラ地域はアフリカ全土の国からエジプト、チュニジア、リビア、アルジェリア、モロッコ及び南アフリカを除いた50カ国。穀物は精米換算重量、イモ類は生重の27%、プランテンは生重の25%として乾物重に換算している。
出典:FAOSTATデータを基に計算
FAOが集計しているアフリカ全56カ国における乾物ベースの食糧生産量は、1993年の136百万tonから年平均2.14%ずつ増加し、2002年には165百万tonとなった。このうち、エジプト、チュニジア、リビア、アルジェリア、モロッコ及び南アフリカを除くサブサハラ地域50カ国では、同期間に年平均2.20%増加し、1993年の102百万tonが2002年には124百万tonになった。サブサハラ地域の食糧生産量はアフリカの総食糧生産量の約75%を占めている。
サブサハラ地域は、それ以外のアフリカ地域に比べ、イモ類及び食用バナナ(プランテン)の食糧としての重要度が高いことがわかる。同地域の食糧生産増加率は、イモ類が年平均2.9%と高く、次いで穀類が1.8%、プランテンが最低で1.5%となっている。
一方、アフリカにおける人口は、1993年の673百万人が2002年には832百万人まで増加した。この間の年平均増加率は2.38%であった。サブサハラ地域では同期間に人口は508百万人から640百万人に増加し、年平均増加率は2.60%であった。サブサハラ地域での一人あたりの食糧生産量は1993年には201kgであったのが、2002年には194kgと低下しており、一方、サブサハラ以外の6カ国でのそれは208kgから213kgに増加している。
次に、食糧輸入動向を見てみよう。食糧の輸入はそのほとんどすべてが穀物あるいはその加工品である。
これらをまとめて下表に示した。
表 アフリカにおける1993年及び2002年の穀物輸入量 単位:1,000ton
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年
|
コメ *
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コムギ **
|
トウモロコシ
|
他穀物
|
合計
|
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サブサハラ地域
|
1993
|
3,696
|
5,641
|
2,836
|
413
|
12,586
|
|
2002
|
5,241
|
9,928
|
2,322
|
195
|
17,686
|
|
年増加率
|
3.96%
|
6.48%
|
-2.20%
|
-8.00%
|
3.85%
|
|
サブサハラ以外
|
1993
|
635
|
15,457
|
4,967
|
2,115
|
23,174
|
|
2002
|
984
|
19,118
|
9,852
|
1,007
|
30,961
|
|
年増加率
|
4.99%
|
2.39%
|
7.91%
|
-7.91%
|
3.27%
|
|
アフリカ全土
|
1993
|
4,331
|
21,098
|
7,803
|
2,528
|
35,760
|
|
2002
|
6,225
|
29,046
|
12,174
|
1,202
|
48,647
|
|
年増加率
|
4.11%
|
3.62%
|
5.07%
|
-7.93%
|
3.48%
|
注:
*様々な形態で輸入されるコメ(籾、玄米、精米及び砕米)を精米に換算(籾65%を精米として換算)して算出している。
**コムギの輸入はコムギ粒及び製粉コムギとして行われている。ここでは製粉コムギをコムギ粒に逆算してコムギ粒としての輸入量としている。なお、コムギ総輸入量に対する製粉コムギの割合は1993年の25%から2002年には11%に低下している。他の穀物の粉としての輸入量は微量であるので、ここには加えていない。 出典:FAOSTATデータを基に計算
アフリカ全体の穀物輸入量は1993年の35.8百万tonから年平均3.5%で増加し、2002年には48.6百万tonに達した。このうち約60%がコムギ及び製粉コムギが占めており、次いでトウモロコシ[1]、コメが続く。9年間の増加量ではコムギが8百万tonと最も高く、次いでトウモロコシの4.4百万ton、コメの1.9百万tonと続くが、伸び率ではトウモロコシが年平均5.1%と最も高く、次いでコメの4.1%、コムギの3.6%と続く。
一方、サブサハラ地域の穀物輸入量は1993年の12.6百万tonから年平均3.85%で増加し、2002年には17.7百万tonとなった。作物別割合をみると、コムギが45%から56%と増加し、次いでコメが30%弱でほぼ一定であり、トウモロコシ23%から13%と低下した。この間の増加量は、コムギが4.3百万ton、コメの1.5百万tonであり、伸び率ではコムギが年平均6.5%と最も高く、次いでコメの4.0%が続き、トウモロコシと他作物は減少している。
アフリカの食糧輸入の60%以上は総人口のわずか23%を占めるサブサハラ以外の国へ流れており、その大半はコムギである。サブサハラ地域でもコムギの輸入量が急速に伸びている。
サブサハラ地域での食糧生産量と輸入量を合計して食糧供給量を算出すると、1993年の114.73百万tonから2002年には141.89百万tonに増加しているが、その増加率は年平均2.39%であり、同期間の年平均人口増加率2.60%を下回っている。当地域で食糧需給バランスは逼迫している。
2.食糧需給バランス改善の方法
人口抑制と食糧安全保障
上で述べた現状を改善するためには、大きく二つの方策が考えられる。一つは年率平均3%近い人口増加率を抑制すること。もう一つは、食糧安全保障体制を確立することである。両方の対策共に重要であるが、ここでは食糧安全保障について考える。
食糧安全保障への二つの道
食糧安全保障体制の確立には、自国での食糧生産増加と輸入という二つの道がある。サブサハラ地域の国々では食糧生産による供給不足を輸入または食料援助で補っているのが現状である。しかし、食糧輸入のために貴重な外貨を使用すると、他の物資の輸入に支障がでてきて、国の開発の遅れにもつながる。また、長期的に見て全世界で将来食糧生産を大きく増加させる可能性のある国はほとんどない。したがって、今後、サブサハラ地域で食糧安全保障を確保するためには、自国での食料増産に努める以外にない。実際、サブサハラ地域の多くの国で、食糧増産は最重要政策課題の一つとなっている。
食糧増産を考える上でのもう一つの視点
上で述べたことは国のレベルから見た話である。もう一つ、食糧生産は農民によって行われていることから、農民の視点から食糧生産を見る必要がある。彼らにとっては生計を立てることが第一で農業は生きるための一つの選択肢に過ぎない。今よりも金を稼ぐ手段が農業以外にあれば、そちらに走るだろう(若者が都会に出て行く理由の一つにそれがあるであろう)が、現実には選択肢はほとんどない。他の社会経済活動から離れた農村で生計を立てるためには農業は一番容易で、かつ安全な方法である(食べていける)。ただ、農業所得を増やすということは容易なことではない。アフリカ地域で農業所得を増やすことの制限要因は、生産費が高いこと、自然条件が厳しいこと、そして生産物を売る市場が小さいことである。
3.食糧増産の方法と問題点
アフリカで作物収量が低いわけ
アフリカ大陸は自然肥沃度が低い。これは大陸が非常に古いからであって、何億年という地質学的なスケールの歴史の中で、隆起と浸食を繰り返した結果、土壌中の養分が海に流れ出た結果である。例外は、東アフリカを南北に走る大地溝帯に沿った火山の周辺で、ここはマグマの噴出により土の若返りが起きている。エチオピアは世界でも有数の肥沃な土壌が分布しており、ケニア、タンザニア、ウガンダなども一般的に肥沃な土壌が多い。肥沃な土壌があるところには人口も多いのが特徴である。
さて、自然肥沃度が低い土壌の問題は作物の生育に不可欠な養分が足りないことである。例えば、リン、カリ、イオウ、亜鉛、硼素、マグネシウム等々。窒素に関しては豆科作物の導入により空中の無機態窒素を有機態窒素に変換して利用することが可能であるが、他の要素は外部から付加してやらなければならない。人間を例にすると、UNICEFが世界のヨード欠乏地域に居住する人々に対し、甲状腺疾患の予防のためにヨード入り食塩を配布している、作物も正常な生育のために養分摂取が必要なのである。したがって、作物の正常な生育のために施肥は必須の要件である。それにも拘わらず、アフリカにおける肥料の施与量は大変低い(ヘクタール当たり9kg)水準にとどまっている(例えば日本では400~500kg施与している)。自然肥沃度が低い土壌で肥料をほとんど施与しないで作物を作れば、当然収量は低く抑えられる。アフリカの作物収量が低いのは、このためである。
施肥の問題
ではなぜ、化学肥料の施与量が低いのだろうか?理由は二つある。一つは化学肥料の価格が大変高いこと、もう一つは肥料が効かない場面が多く、収量が増えないばかりか赤字経営になってしまう危険性が高いために使用を控えるからである。
一つめの理由をもう少し説明する。化学肥料は価格が高い(工業製品で先進国並みの価格:農産物価格が安いため相対価格上昇)ため、零細農家には手が出ないという面がある。アフリカのいくつかの国で尿素肥料の市場価格とコメの農家渡しの価格を調査した。その結果を以下に示す。
表 サハラアフリカ諸国における籾及び尿素肥料市場価格比較 単位:US$
|
国名
|
籾1kg価格
|
尿素50kg価格
|
窒素1kg価格
|
窒素/籾価格比
|
|
|
ガーナ
|
0.20
|
16.9
|
0.74
|
3.7
|
|
ケニア
|
0.33
|
15.5
|
0.68
|
2.0
|
|
マラウィ
|
0.18
|
17.9
|
0.78
|
4.3
|
|
ナイジェリア
|
0.21
|
14.6
|
0.63
|
3.0
|
|
タンザニア
|
0.24
|
16.3
|
0.71
|
3.0
|
|
ザンビア
|
0.63
|
24.3
|
1.06
|
1.7
|
|
マダガスカル
|
0.19
|
20.2
|
0.88
|
4.6
|
|
日本(比較)
|
2.08
|
19.9
|
0.87
|
0.42
|
|
|
|
|
|
|
|
出典:JICA在外調査結果を基に作成。日本の籾価格は玄米出荷価格を1kgあたり300円と仮定し、籾すり率80%、US$1=\120円として計算。 まあ肥料価格は長野県の販売店における価格調査を基に算出。
籾の市場価格は、1kgあたりUS$0.2~US$0.3である。ザンビアはアフリカの中では例外的にコメの価格が高く、贅沢品である可能性が高い。ちなみに日本での籾価格は1kgあたり約US$2であり、アフリカ地域の6倍から10倍以上である。一方、尿素肥料1袋(50kg)の価格はUS$15~US$20の範囲にあり(ザンビアは例外的に高い)、日本での価格と大差ない。窒素1kgの価格を計算し、窒素1kgと籾1kgの価格比を見てみると、アフリカ諸国では1.7から4.6で、窒素が籾よりも高くなっている。日本では窒素の価格は籾の2分の1未満である。すなわち、アフリカ地域では籾に対する肥料の相対価格が日本におけるそれの4倍から10倍である。アフリカ地域の農民の多くは、このような高価な肥料を購入するだけの現金を持ち合わせておらず、たとえ現金があったとしても、見返りが確実に期待できない場合には肥料に投資はしない。施肥量が少ない理由の一つはここにある。
二つめの理由として、肥料が効かない場面があると書いた。作物に必須な元素は16ある。このうち炭素、水素及び酸素は自然界から供給されるのであるが、他の13元素は土壌から供給される。これら肥料のどれか一つでも不足すると、植物は正常な生育が妨げられ、作物収量は低下する。施肥の基本的な考え方は、ある作物(あるいは品種)が持つ潜在的収量を発現させるため、生育に必要な養分を適宜補ってやることである。したがって、施肥のためには土壌の性質を調べ、あるいは生育している作物の生育状況を観察して、不足している養分を特定する必要がある。
しかし、アフリカ地域では一般に、これらの調査が不足しているため、施肥技術が確立しておらず、肥料が効果的に使用されていない。あるいは研究はされていても、その結果が実際の生産現場に伝わっていないということが起きている。その結果、その土地において本当に必要な養分を含んだ肥料が施与されず、増収効果があまり現れない。一つの例として昨年ガーナ北部の農村で行った試験結果[2]を以下に示す。

注:(1)試験は農家圃場を借用して、施肥及び栽植密度以外の栽培技術は農家の慣行法に従った。(2)標準区におけるトウモロコシ、ラッカセイ及びダイズの収量はそれぞれ、0.26ton/ha、0.66ton/ha及び0.32ton/ha。
標準区は無肥料で生育したもので、この区での収量を100としたときの各処理区での相対収量を示したものである。この試験は農家の圃場を借用して実施した。トウモロコシでは、標準区に対して三要素NPK区だけでは3倍ほどの増収にとどまっているのに対し、NPKS区では9倍以上に増収した。また、ダイズではNPKS区で標準区の6倍となり、NP区でも標準区の4倍とかなり増収した。一方、ラッカセイはNP区で標準区の2倍弱増収したが、トウモロコシやダイズのような顕著な増収は認められなかった。日本では普段問題にはならないイオウが、ここではトウモロコシやダイズ増収の決定的な要素となる。
次に増収が収益増を伴っているかどうかを検討してみる。各処理区での施肥量に応じた肥料価格を算出し、それを作物増収分の価格(粗利益)と比較したのが下表である。
表 各作物における処理区別粗利益増加額と肥料投資額の比較 単位:セディ/エーカー
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|
標準区
|
+N区
|
+NP区
|
+NPK区
|
+NPKS区
|
|
粗利益
|
|
|
|
|
|
|
-トウモロコシ
|
0
|
383,699
|
743,463
|
915,701
|
4,080,499
|
|
-ラッカセイ
|
0
|
339,827
|
1,034,879
|
454,052
|
863,345
|
|
-ダイズ
|
0
|
459,818
|
1,802,182
|
1,818,364
|
3,010,909
|
|
肥料投資額
|
0
|
512,000
|
694,000
|
934,000
|
1,122,000
|
注:各作物の単価は市場における聞 |